問題文作成法



それではいよいよ、問題を作ってみましょう。
ここでは私がお勧めする問題文の作り方をご紹介します。
簡単に言うと、「元ネタの不思議な部分を抜き出して作る」という方法です。

前章に挙げた元ネタで実際にやってみましょう。

ネタその1「オリジナル」
地雷を踏み、両脚が吹き飛んだ兵士。彼は痛みにのたうち回りながら考えた。
このままでは助かる可能性は低い。たとえ助かったとしても、
自分の介護に貴重な労力が費やされることになる。
ならば、自分の命と引き替えに地雷を1つ除去してやろう。
そうすれば地雷の被害に遭う人間が1人減る。
今の自分にできることはそれだけだ。
彼はそう考え、効率よく地雷を探せるように渦を描くように地面を這いずり始めた。

だがその思いもむなしく、彼は地雷の上を通り過ぎる前に力尽き
後には渦巻き状の血痕だけが残った。


この中で最も不思議な部分は「渦巻き状の血痕」という記述ですね。
普通の血痕ならともかく渦巻き状となると、日常的に血を見慣れている方でも
なかなかお目にかかれないものではないでしょうか。
しかし「地面に渦巻き状の血痕があった。なぜか」だけではヒントが少ない気もします。
そこで「脚の無い男の死体」も入れてやりましょう。すると問題文は以下のようになります。

地面に大きな渦巻き状の血痕があり、その外端部には脚の無い男の死体があった。
何が起きたのか。


これならどうでしょう。自画自賛になりますが、不思議で、写実的で、簡潔で、
容易に別解が思いつかないであろう問題文が出来ているのではないでしょうか。
問題文の作り方の1つとして「ラストシーンをそのまま問題文にする」という方法があります。
これはラストシーンが視覚的に極めて不思議な状況である場合に効果的な方法です。

ネタその2「墓場へ行く娘」
その村の長者には美しい娘がいた。あちこちから結婚を申し込む男がやって来るのだが、
次の朝にはみな逃げ帰ってしまう。不思議に思った男が結婚を申し込みに行くと、長者は言った。
「わしの娘には妙な癖があってな、夜中に一人でどこかに出かけてしまうのだ。
お前さんに娘がどこへ行くのか、確かめて欲しい。そうしてくれればお前さんを婿として迎えよう」
男はそれを引き受け、夜になるのを待った。真夜中になり、娘はろうそくを持って屋敷を出た。
男がこっそり後をつけると、墓場にたどり着いた。
物陰からじっと見ていると娘は棺桶を掘り起こし蓋を開けると
遺骨を一本、手にとって食べ始めた。普通なら腰を抜かしてしまう所だが、
男はぐっと気持ちを落ち着けて様子を見続けた。
骨を食べ終わると、娘は屋敷へと帰っていった。
娘の姿が見えなくなってから男は棺桶の中の骨を調べてみた。
すると娘が食べていたのは人の骨ではなく、骨の形をした飴であることが分かった。
男はその飴を一本持ち帰り、長者に見てきたことを話した。
「……これがその飴です。お確かめ下さい」
「いや、分かっておる。それはわしが飴屋に作らせた物だからな。
この家を継ぐ者は肝の座った者でないといかん。そこで結婚を申し込む男が来る度に、
娘に芝居を打たせているという訳だ。あんたほどの男は他におらん。娘をやろう。」
こうして男は娘と結婚し、末永く幸せに暮らしたそうな。


この中で最も不思議な部分はやはり娘が骨を食べるシーンでしょう。
これで次のような問題文ができます。

深夜、墓場で棺桶の中の骨をむさぼり食う女とそれを見つめる男。
状況を説明せよ。


しかしこれでは「骨を食べるのを趣味としていた女を男が発見した」というだけの
話でも成立してしまいます。そこでラストの「結婚した」も加えてみましょう。
さらに女がなめていたのは骨ではなく飴なので「骨をむさぼり食う」では嘘になってしまいます。
ここは他の言葉に置き換えましょう。「棺桶の中身」というのはどうでしょう。
飴であれ骨であれ棺桶の中に入っていたことには違いないので嘘にはなりません。
しかも、問題文の不気味さも保てているのではないでしょうか。
最終的に問題文はこうなります。

深夜、墓場で棺桶の中身をむさぼり食う女とそれを見つめる男。
翌日、2人は結婚した。
なぜか。


夜中に墓場で棺桶の中の物を食べている人を見たら十中八九、骨を食べていると思うはずです。
まして、その人と結婚しようなどと思う人はまずいないでしょう。これがこの問題の
「不思議な展開」です。この問題は「ラストシーンと他のシーンを抜き出す」タイプの
問題であり、この方法は常識では起こりえない展開を含む元ネタに対して有効です。

ネタその3「3人の医者」
どんな怪我でも治してしまうことで有名な3人の医者が宿屋に泊まった。
医者達は主人に医術の腕前を見せてほしいと言われた。
そこである医者は腕を、またある医者は眼球を、最後の1人は心臓を
身体から切り離し、主人に渡しながら言った。
「明日の朝にこれを元通りにくっつけてみせましょう。それまで預かっていて下さい」
主人は医者達の身体の一部を戸棚にしまったが、気づかぬ間に入ってきた野良猫が
くわえてどこかへ持っていってしまった。
身体の一部が無いのに気づいた主人は近くの処刑場に行き、晒し者にされていた
盗人の死体から腕を切り取り持ち帰った。同様に眼球は猫、心臓は豚のもので間に合わせた。
翌朝、主人は何食わぬ顔で盗人の腕と猫の眼球と豚の心臓を医者に渡した。
医者達が渡された身体の一部を自分の身体にはめて塗り薬を塗ると
あっという間に傷口がふさがり、継ぎ目も分からなくなった。
だが身体をつないだ途端に、盗人の手をくっつけた医者は手が勝手に動き始め、
主人のポケットの中にあった財布を掴んだ。猫の目の医者は辺りが見えなくなった。
豚の心臓の医者はそこら中を四つんばいで這い回りだした。
医者達は訝しがりながら言った。
「どうも様子がおかしい。我々はどうやら盗人の手、猫の眼球、豚の心臓を
つけてしまったようだ。早く本物をお出しなさい」
主人から訳を聞いた医者達は激怒したが、宿にある金を全て受け取ることで
なんとか許してやることにした。だが、いくら金をもらっても
自分の身体を無くした医者達の悲しみが癒えることは無かったという。


このネタは問題文を作る前に、簡略化してみましょう。原典では医者が
3人登場していますが、問題を作る上では1人で充分です。
問題文に3人と書いてしまうと回答者は「3人であるということが重要なのだろうか」と
考えてしまいます。問題に登場する人物は少ない方がいいのです。それは、無意味に
登場人物が多いと当てるべき要素が増え、回答者が混乱してしまう危険が高まるためです。
ここでは盗人の腕の医者を採用することにします。
ではこのネタの中で最も不思議な部分はどこでしょう。
「 主人は近くの処刑場に行き、晒し者にされていた盗人の死体から腕を切り取り持ち帰った」
ここですね。しかしこの文に「なぜか」という問いかけを付けただけの問題文では
「腕を食べるつもりだった」という答えでも成立してしまいます。そこで
「いくら金をもらっても自分の身体を無くした医者の悲しみが癒えることは無かった」
という部分も付け加えましょう。この2つのシーンを繋げて写実的な表現にすると
以下のような問題文ができます。

ある医師が宿屋に泊まった。
その夜、宿屋の主人は宿を抜け出し、しばらくして人間の片腕を持って戻ってきた。
翌朝、医者は大金を抱えつつも悲しげな表情で宿を後にした。


「盗人の腕を切り取った」という直接的な表現を避けることで「腕をどうするのだろう?」
だけでなく「その腕はどうやって用意したのだろう?」という不思議さを演出。
3行目でも「金を得たのになぜ悲しいのか?前夜の主人の行動は関係あるのか?」というふうに
謎とそれを解くヒントを回答者に投げかけている訳です。
1行目は、2行目の時点で医者が宿屋にいたことを強調するために付け加えました。
ただ解説から文を抜き出すだけでなく、元ネタを改変したり視点を変えてみることも重要です。


以上が問題作成の実例です。出題に慣れている方ならご存じでしょうが、
問題にしやすい元ネタは見聞きしてすぐに大まかな問題文が浮かび上がってくるものです。
そうでなくとも、どの部分が不思議なのかははっきりしているでしょう。
しかし、問題文がすぐに浮かんでこないからといって問題を作るのを諦めるのは早計です。
内容を改変したり、視点を変えることで初めてできる問題もあります。
助かった人間を死なせてみたり、成功していた計画を失敗させてみたり、
主人公以外の登場人物の立場になって考えてみたり……改変の方法は色々あります。
元ネタを生かすためには時として内容を大きく改変する必要があることを心に留めておいてください。

戻る